中国労働法ニュースレター (第四回)
2018/05/30 『中倫視界』より転載
(3) 分析
本件の争点は、会社が、病気休暇中に海外旅行をした従業員を社内規定違反として解雇するこ
とができるか否かである。
これにつき、二審法院は、丁氏が病気休暇中に長距離でのフライトでブラジルに行ったこと
は、丁氏の病状が休暇をとる程度にまで至っていないとの会社の主張は、会社の主観的判断で
あり、病気休暇は、医療機関が発行した診断証明によるべきであるとした。社内規定には、労
働者の病気休暇中の休養場所を制限する規定はなく、また、これについては、法律上もかかる
規定がないことから、丁氏が病気休暇中にブラジルへ行った行為そのものは社内規定や法律へ
の違反行為にあたらない。よって、会社が重大な社内規定の違反にあたるとして丁氏と労働契
約を解除したことは、法的根拠がないため、会社は労働契約の解除決定を取り消し、両者は労
働契約を継続して履行すべきと判示した。
一方、再審ではまったく異なる見解を示した。
司法の実務において、使用者には明確な社内規定と労働規律の定めを提唱しているが、決して
従業員の些細な日常行動まで規制するような規定を設けることまで求めているわけではない。
労働規律及び社内規定において定めがない場合には、民法の基本原則に基づき判断すべきであ
るところ、信義則は従業員が守るべき社会道徳であり、使用者と従業員が労働関係を形成し、
継続する基礎であるとした。本件において、会社はその社内規定で従業員の休養場所を限定す
る旨の規定を設けていないが、丁氏のその病気休暇中の行為は休暇申請事由に見合った内容で
なければならない。日常生活の常識からしても、会社には丁氏の病気休暇の申請目的が休養又
は治療の目的ではないと疑念を抱く十分な理由があり、また、丁氏は会社との面談時に事実の
説明を拒否している。丁氏の行為は、信義則及び社内規定の違反にあたり、使用者の社内秩序
及び経営管理に悪影響を与えることに鑑み、会社が社内規定の重大違反として丁氏との労働契
約を解除したのは合法且つ有効である。
中倫の見解:本件再審判決は、二審の機械的な法律適用ではなく、民法の基本原則である信義
則を適用し、使用者と従業員の実質的公平を実現した。もっとも、信義則の適用は、裁判官の
自由裁量権によるものであることから、安易に、従業員の病気休暇中の出国を事由に労働契約
を解除することができると結論付けてはならず、ケースバイケースで判断しなければならない
点にご留意されたい。
※注:
本ニュースレターは無償提供するものであり、閲覧により当所のリーガルサービスが発生するもの ではありません。 掲載の内容は広く一般から収集した情報を独自にまとめたものであり、当所及び当所弁護士の法的意見を述べたものではありません。